社民党雇用担当相と「多様な労働形態」

 
 twitterだけで済ましているのもさすがにアレなので少しずつブログも生き返らせていこうかと思います。というわけでまずは政治ネタから。
 
(9/10)福島氏入閣、社民は雇用担当を要求 鳩山氏、閣僚人事を加速
http://www.nikkei.co.jp/senkyo/2009shuin/elecnews/20090910NTE2INK0210092009.html
 
 本当に福島氏の雇用担当相が通るのならある意味新政権最大の意思表明ですよね。政治的には妙案なのかもしれませんが国民最大の関心事を衆参合わせて12議席の政党に投げるというのはなんともはやという話ではあります。とは言え総理大臣が決めてしまえばまあそれはそれで一つの決定として受け止めるしかないので、敢えてポジティブな方向から雇用担当相に期待する向きを思考実験してみたいと思います。あくまで仮説・希望ベースながらとりあえず論点は2つです。
 
1:正規雇用者vs非正規雇用者の対立を止揚できるか?
 雇用問題への伝統的な視点というのは言うまでもなく「資本家=大企業」vs「労働者=労働組合」の対立軸を中心に考えられてきたわけですが、現代ではむしろ池田信夫氏らが主張されるように「(現状の労働組合の大半を占める)正規雇用者」vs「(アルバイトや派遣社員を中心とした)非正規雇用者」の対立軸のほうが重要になりつつあると言えます。例えば社民党が雇用政策を主導することになった時に彼らはこの問題をどう取り扱うのか。現時点では与党の支持基盤との関係もあり正規雇用者寄りの政策に傾くことが予想はされますが、無党派層の取り込みということも考慮するとあまりあからさまなことはできず、むしろ民主党よりもバランスの取れた方向に進んでいってくれる「可能性も」考えられます。いわゆる社会主義政党としての存在意義が薄れる中、社民党が党を挙げて「適切な」雇用政策を集中的に考える集団として生まれ変わっていけるならば、こういう采配も一つの方向性としてアリなのではないかと思います。
 
2:「多様な労働形態」を社会制度に埋め込むことができるか?
 上記とも関連しますがこちらはより重要です。僕自身の立場はかなり強固な「市場・イノベーション重視」なので直感的には企業の利益や経済成長を擬制にしてでも雇用を守れという議論とは相反するようにも思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。私自身(そしておそらく多くの経済学者も)、経済成長と社会的安定の両面から見て、安定した雇用はあらゆる社会制度・政策の中で最も重要なものの一つだと信じています。
 イノベーションという視点から見た時、おそらく最大のキー概念は「雇用・労働形態の多様化」をいかに社会制度全体の中に埋め込むかという問題でしょう。ダニエル・ピンクの『フリーエージェント社会の到来』までは行かないにしても、非正規雇用労働や複属型労働、そして雇用流動性の確保は経済成長とイノベーションの拡大にとって不可欠な要素として認識され始めています。生産性の低い産業からいかに生産性の高い産業へと労働者を移行させていくのか、一つの会社や組織にとどまらず様々な技能を身につけいかに新結合を引き起こしていくのか。フルタイム・終身雇用の組み合わせが完全に無くなるとは思いませんが、望む望まずに関わらず少数派になっていくことは明白だと言えます。
 そして多様な労働形態を進めていく中では、そうした流動性と「個人と社会の安定性」どう両立させていくのかという難しい課題が付いて回ります。これはある意味相矛盾していると考える向きもあるかもしれませんが、私はそうは思っていません。セーフティネット雇用保険などの各種雇用制度、そして高等教育のあり方といった国家の「プラットフォーム機能」を再構築して両者を両立させ、「大きな政府」と「小さな政府」での極端な揺り戻しが繰り返されることのない継続的なイノベーション国家を実現していくことは可能なはずです。
 制度改革と同時に中長期的にはさまざまな意識面での改革が行われる必要がありますが、雇う側=企業の意識変革と同時に雇われる側=労働者の意識変革を進めていかなければなりません。そうした中で、労働者側との親和性を党是に掲げる社民党が前述のように労働政策を専門的に考え実行する中で労働者の意識に「多様な労働形態」を浸透させていってくれるならば、こうしたある種のトライアルも必ずしも無駄なものにはならないのではないでしょうか。

フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか

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