EU行動ターゲティング広告業界団体の自主規制案が大苦戦中

 少し間が空いてしまいましたが、引き続き『情報社会と共同規制』では第5章「行動ターゲティング広告のプライバシー保護」で取り扱ったEUのプライバシー政策関連でこれまた重要な動きがありました。

 先のポストで取り上げたデータ保護指令全面改正ドラフトでは、行動ターゲティング広告に関わるクッキー等の取り扱いは含めず電子プライバシー指令で引き続き対応していくことが確認されていた(ドラフト89条)ことを書きましたが、そちらの電子プライバシー指令に関わるクッキーの取り扱いについて、「行動ターゲティング広告業界団体の自主規制案を29条作業部会がリジェクトした」件についての詳細なopinionが出されました。

 少々文脈が複雑なので拙著をかいつまんで背景からご説明致しますと、EUではクッキーを利用した行動ターゲティング広告につき、2002年当初の電子プライバシー指令(2002/58/EC)の5条(3)において「ユーザーの端末(terminal equipment)に蓄積された情報は、当該ユーザーがその利用目的等についての明確かつ包括的な情報を与えられている場合に限り利用可能であり、ユーザーはその利用を拒絶する権利を持たねばならない」として、オプトアウトでの対応を規定しておりましたところ、

 2009年の通信関連指令大改正に伴う電子プライバシー指令改正(2009/136/EC)において同条は「ユーザーの端末に蓄積された情報は、当該
ユーザーがその利用目的等についての明確かつ包括的な情報を与えられた上で同意を得た場合に限り利用可能である」と書き換えられ、オプトインでの対応が求められることになりました。

 この改正については関連業界からは当然大きな抵抗が起き、いまだ改正指令自体が数カ国でしか国内法化がされていない状況が続いておりましたが、中でも英国では、オンライン広告業界団体が中心となって「あくまでオプトアウトにこだわった」自主規制案を作り、それを英国内個人情報保護当局に承認してもらう共同規制の体制作りに向けた努力を続けておりました(このへんまで5章で紹介しました)。

 この動きは英国を超えてEU域内のオンライン広告業界全体に広がっており、2010年ごろからEUレベルでの広告業界団体European Advertising Standards Alliance (EASA)とInternet Advertising Bureau Europe (IAB)が中心となり同じく「あくまでもオプトアウトにこだわった」自主規制原則を策定し、EUレベルでの共同規制の構築に向けてEU当局の承認を求める作業を進めておりました(背景では欧州市場の規制強化を止めたい米国のIT企業勢がスポンサーになっていると聞いています)。

 雑駁に要約しますとこれは「改正電子プライバシー指令の文言ではオプトインが原則と書いてあるけれど、それではライフログ商売が成り立たないので、オプトアウトでの自主規制を業界全体としてちゃんと責任持ってやっていくので、それをもってオプトインは勘弁してください」ということを業界側が欧州委員会にお願いに行っていたという話なのですが、今回の29条作業部会のopinionは、それに対して「いや、やっぱりオプトインじゃないとダメだ」という回答を明確に返したということになります。

(さすがに「ダメだ」だけでは「それじゃ一体どうすれば、、」という話になってしまいますので、29条作業部会としても上記opinionのp.9-10にてオプトイン同意取得の方法論としていわゆるポップアップ型の他、バナー型やブラウザのデフォルト設定等のいくつかの類型を示しており、正しいオプトインのやり方として参考になります。)

 この自主規制原則が認められるかどうかは、EUにおける行動ターゲティング広告産業の将来を実質的に占う試金石とも言えるものだったので注目しておりましたが、やはりEUのプライバシー重視の姿勢は強硬の模様です。もちろん業界側としてもまだ完全に諦めたわけではなく、引き続きギリギリのラインを巡る鞘当が行われていくものと思いますが、業界側としてはかなり厳しい戦いを強いられることになりそうです。

 一方米国では最近のいわゆるDo Not Track法案などを見ても基本的にはオプトアウトの仕組みを強化していく方向で対応する模様で、我が国としても昨年2010年5月の総務省「配慮原則」によって米国型の仕組みを暫定措置として採用していくことが確認されましたが、EUの側がこのような強硬姿勢を堅持するとなると、所管の消費者行政課としてもこれから先EU型(オプトイン)と米国型(オプトアウト)の「どちらを採るか」という判断は、悩ましいものになっていくだろうなあと思います。

 ちなみに米国型を続けるとしてもオプトアウトの強化策は日本ではまだほとんど手が付いていないところなので、いずれを採るにしても自主規制関連の仕事は多くなるところです。最低限でもEU・米国共に構築を進めている業界団体レベルでの一括オプトアウトの仕組みは必要になってくると思います。