スリーストライクから共同規制へ

 少しだけ日本語に戻ります。さいきん諸般の事情により急ぎでフランス語とフランス法を強化中ということで色々やってましたところ、前にモルガン先生から教えて頂いた今月公開のPierre Lescureの報告書に基づいて(Merci beaucoup, Dr Morgan!)、オランド政権の文化通信大臣がHadopiを来月にも(extrêmement rapidement, dans le mois qui vient)廃止することを正式に発表したとのこと。兎園さん(いまだご正体は不明)のtwitterにて見つけたのですが、なぜかまだ英語圏ではニュースが見当たらず。
http://www.lemonde.fr/technologies/article/2013/05/20/hadopi-la-coupure-internet-sera-supprimee-en-juin_3385291_651865.html
 
 ということでグーグル翻訳使ってちくちくと報告書読み。本体はこちらの右側PDF。
http://culturecommunication.gouv.fr/Actualites/A-la-une/Culture-acte-2-80-propositions-sur-les-contenus-culturels-numeriques
 基本的には代わりに検索エンジン等を含む媒介者の対応を強化させるという形で(34p-)、しかもそのやり方は公的枠付けを受けた自主規制に依るべき(Ainsi, la puissance publique pourrait promouvoir, tout en l’encadrant, une autorégulation fondée sur des engagements pris volontairement par les différentes catégories d’intermédiaires ... Cette forme d’autorégulation encadrée par la puissance publique offrirait une souplesse et une réactivité..)ということで、まさに「政府規制から共同規制への移行」とも言うべききわめて興味深い内容。『情報社会と共同規制』第6章では欧州のスリーストライクに関して、
 
・米やアイルランドなんかはプロバイダと権利者団体の協定に基づく「自主規制」
・英国なんかは自主規制の失敗に基づく「共同規制」(ただその実現は微妙)
・フランスはHadopiの「政府規制」
 
 という整理をしてみたんだけど、政権交代という背景があれど、フランスで政府規制たるHadopiが失敗して、共同規制に移行というのは英国と対照的で面白い。「イノベーションと共同規制」では21pに書いたオンライン・プライバシーを巡るEU・米国の相互接近の図が、まさに著作権・スリーストライクを巡って対照的だったフランスと英国の間にも該当し始めているという。やはりネットの問題は自主規制でも政府規制でもだめで、共同規制によってのみ解決されうる。
http://ikegai.jp/Innovation_and_coregulation.pdf
 ちなみにSelf-regulationの訳語として自主規制を充てるのはよいとして、フランスを対象にするときは文脈によってはautopoïèseよろしく「オートレギュレーション」とちゃんと訳し分けるべきなのかなというあたりの問題は専門ど真ん中なので、概念の経緯と実際の運用をよく調べつつ要検討。翻訳は言語と文化への敬意をもってこそ、ですよね。しかしだとしたら、フランスの共同規制は「セミオート・レギュレーション」、なのか?滝汗
 
 さはさりとて。他に全体的に報告書を拾い読みしている限りでも、現行フランス法にも明文規定のないdomaine publicを明文化すること(38p-)などが含まれており、これは先日の著作権法学会島並先生たちのご報告の文脈からも興味深いところですよね。「利用」や「自由」は利用者の権利とし得るのか、あるいは「文化の発展」の上位概念として位置づけられるべきであろう「公共/公益の増進」は、そもそも著作権法の実現しようとする価値に(どの程度)含まれるんだろうか?問題など、など、など。
 ここのところいくつか欧州各国の先生方とやりとりさせて頂く機会が増えているけれど、その中でもフランスは米IT勢との戦いという意味でもとても興味深い一方、孤児作品どころか絶版書籍をもオプトアウトでデジタル化・公開しようとするBNFのReLIRE(http://relire.bnf.fr/)に代表されるように(Merci encore, Dr Morgan!)、自国の「文化のためであれば」逆向きの方向性も非常にアグレッシブなことをしていらっしゃいます。これが本当の「カルチャー・ファースト」なんだなあと感銘を受けるばかり。日本ももっと真似したいところです。なにしろLe droit civil japonais est basé sur le droit et l'histoire française!ですから!