「法律」から「文化」、そして「経済」へ

 8月からCCJPでは月刊でメルマガを出してるんですが、20日発行の9月号(創刊第2号)の巻頭言を書かせて頂きました。メルマガご登録まだの方は以下のURLからぜひ。


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 ちょっと長いですが、せっかくCCなので書いた原稿全文転載しちゃいます。お時間ありましたらご笑覧くださいませ。


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「法律」から「文化」、そして「経済」へ
生貝直人(クリエイティブ・コモンズ・ジャパン事務局スタッフ)


 CCJPメールマガジン読者のみなさま、はじめまして。私、CCJPにて事務局スタッフを務めております生貝直人と申します。
 CCは、ご周知の通り2001年にローレンス・レッシグ教授を中心として設立されてから、早くも6年以上の年月が経過しています。その時間の中でCCは、「自由で豊かな情報流通を実現する」という変わらない理念を念頭に置きつつ、常にその活動の幅を広げてきました。
 その理念をCCが求める最も根本的な目的だとすれば、私見ではありますが、その目的は「法律」「文化」「経済」の3つの分野にブレークダウンできるものと考えます。以下、それぞれのキーワードから、CCの活動を再考して参りたいと思います。


 まず1つ目は、「法律」です。著作権法が創作者にもたらすインセンティブは、文化や経済を発展させる大きな礎としての役割を果たしており、今後もその役割の重要性が低下することはないでしょう。しかしデジタル・ネットワーク時代において、著作権法には多くの問題が提起されはじめています。そのもっとも大きな問題のひとつが、著作権法はあらゆる創作物に対し、原則として単一の保護水準しか提供していないということです。そしてその保護は、現行の著作権法が採用する無方式主義による限り、あらゆる著作物に対して自動的に付与されます。
 このような著作権法の性質は、コンテンツを創作し発信する、つまり著作権法の保護の対象となる人々が一部のプロフェッショナルやメディア事業者に限られていたアナログ時代にはうまく機能していました。他人の著作物を利用したい場合には、ある程度限られたネットワークの中で個別に許諾を取ればよかったからです。
 しかし、誰もが情報を創作し発信することのできるデジタル・ネットワーク技術の普及により、その状況は一変しました。たとえばミッキーマウスのキャラクターを利用したいと考えた時には、その著作権者はディズニー社であることは明白です。ですが、インターネット上で偶然見つけたアマチュアの写真を利用したいと思ったときはどうでしょう。運良くその著作権者の連絡先が明記されていればよいですが、多くの場合はそうではありません。しかもそのアマチュア写真家は、必ずしも利用に際してわざわざ連絡を取ってほしいとは思っておらず、むしろ多くの人々に自由に使ってほしい、新しい創作活動に役立ててほしいと思っているかもしれません。柔軟な著作権意思表示システムとしてのCCライセンスは、このような状況を改善するために生まれてきました。


 次に、「文化」についてです。上述のようにCCライセンスの根幹はその法律的側面ですが、法律とはあくまでその上で人々が多様な活動を行うための基盤=プラットフォームでしかなく、ライセンスの仕組みが社会に受け入れられ始めたところから、CCの本当の可能性はスタートするといってよいでしょう。
 CCライセンスという土台の上でまず活動を開始したのが、「文化」あるいは非営利の領域です。CCを活用した文化的活動の方向性は、さらに以下の二つに分けることができます。
 まず、文化的活動の種子としてのCCコンテンツです。いかなる創作活動も、常にその発想の源泉には他の創作物からの何らかのインスピレーションを伴うはずです。たとえば音楽であればベートーベンやモーツァルトといった過去の偉大な作曲家たちの楽曲で練習をしたことが無い音楽家はいないはずですし、学術でいえば過去の膨大な研究業績を参照せずに研究をスタートすることはできません。時おり、このような活動に対して、現状の硬直的な著作権法が障害となってしまうケースが生じます。CCによって自由に利用できるコンテンツを増加させることで、このような状況を改善し、より豊かな創作活動を促して行こうという考え方があります。
 次に、「リミックスの可能性を拡げる」手段としてのCCライセンスです。文化や芸術にはたしかに一人の人間が完成されたものを作り上げるといった側面がありますが、同時にサンプリング・リミックスミュージックに代表されるように、多くの人々が協力し合って作品を作り上げ、成長させ続けていくという側面もあります。リミックスの意思を持った創作者が、そのコンテンツをリミックスの世界に提供するための手段としての可能性を、CCライセンスは持ち得るものであるといえます。


 最後に、「経済」についてです。CCライセンスはその「所有している著作権を一定の場合に不行使にする」という性質から、当初は上述のような文化・芸術分野、あるいは教育などの非営利の分野への適用が先行して行われてきました。しかし特に近年、営利企業がビジネスモデルの中にCCライセンスのような共有の仕組みを取り込んでいこうとする事例が生まれ始めています。その最たる事例がFlickrソニーeyeVioをはじめとする写真・動画共有サイト、そして2007年9月にCCライセンスの公式採用を発表した音楽レーベルのmf247などです。
 従来、コンテンツを用いてビジネスを行う際には、その著作権はできるだけ強固に保護することが原則とされ、ユーザーによる二次流通や派生作品の創造はあまり重視されてきませんでした。しかし近年になって、Web2.0という言葉に象徴されるような情報流通に対するユーザーの積極的な関与、そしてUCC(User Created Contents)の隆盛などに伴い、それらの価値を積極的にビジネスの中に取り込み、ユーザーとともに価値を生み出していく、いわゆる”Sharing Economy”(共有経済)に対する関心が企業の間でも高まり始めています。
 こうした取り組みはまだスタートしたばかりであり、実践の蓄積も、経営学的な知識も決して十分であるとはいえません。しかしこれからCCライセンスを応用したさまざまな形のビジネスモデルが実現され、企業にとってもユーザーにとっても、そして社会全体にとっても有益な仕組みが生み出されてくるとすれば、その価値は計り知れないものです。


 以上の「法律」「文化」「経済」は、今後もそれぞれ同時並行的に取り組んでいかなければならない一方、ある意味では段階的な発展の側面を持っているものかもしれません。確固とした活動基盤としての法律があってこそ豊かな文化は生まれてきますし、人間の根源的な価値観としての文化が存在してこそ、あらゆる種類の経済活動は可能になります。
 著作物の共有が持つ可能性を幅広い分野で最大限に引き出していくために、みなさまのご協力を賜りつつ、CCJPがなんらかの役割を果たしていくことができるとすれば、我々にとっては最大の喜びです。今後とも何卒ご指導ご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。